小説・文芸

【秀麗な表現】蜜蜂と遠雷

タイトル:蜜蜂と遠雷(上) (幻冬舎文庫)

著者:恩田 陸

史上初の直木賞、本屋大賞受賞作



あまりこのようなジャンルの小説は読んだことがない。だから何かと比べて本書がどうかと感想を持てない。でもただ一つ言えることはとてつもなく秀麗な作品だと感じた。

ピアノコンクールを題材にしている。それゆえ音を表現することが多いのだが、色彩豊かで何より一つ一つが綺麗なのだ。私は昔エレキギターを弾いていたがもっぱらハードロックに傾倒していたのでクラシックの曲には全くもって疎い。なんならごく一般的な人よりも知らない部類に入ると思う。興味のあるジャンルばかり聞いては弾いていたからそれ以外の知識がごっそりと欠落している。

そのため本書に出てくる曲名も知らない。かろうじて作曲家はいくらか聞いたことはあるが、それぞれどんな曲調なのか、いつの時代に生み出された曲なのか想像がつかない。

それでも十分というか知らないからこそ、恩田氏の表した語彙や比喩、文章から奏でられる「音楽」を想像する。音の粒が降り注ぐ様子。登場する個性豊かな演奏家たちの指先から語られる声。それらを歌として受け取る聴衆。

ハードカバーで私は読んだ。非常に分厚く500ページも超える作品だが、恩田氏が作り出す音の世界にどんどん引き込まれ一気に読み終えた。実際に音楽を耳から聞いた訳ではないのに、確かにそこには音楽があり聴こえてきた。素直に面白く感動ができた作品である。

音楽だけでなく登場人物にも惹かれる。恩師と母の死により音楽との関わり方が変化した元天才少女。正統派で類まれな才能をもち天才少女と知り合ったこちらもまた天才。妻子を持ち音楽の道をを諦められない努力家のサラリーマン。そして、およそ常人の常識を超え爆弾を抱えた天衣無縫、純粋無垢な少年。

また、本来コンクールという性質上採点側にいる筈の審査員が、実は審査される側というジレンマ。

恩田氏の文章絶唱に加えた設定と登場人物の魅力と相まって素晴らしい作品だと思う。

そしてこれが実写化されるとは驚いた。世間では実写化不可能と言われていたようだが、私も本当に読後そう感じていた。

素晴らしい文章から想像させる事で、およそ実世界ではなし得ない音の世界を紡ぎ出しているからである。だから実際に実態として聴衆へ平等に明確な音階となって晒されてしまい、作品に描かれている言葉から離れ一人一人の人間の創造力に任せて、一人一人が考えうる最高の音を出すことができないのではと危惧している。

ギフトか厄災か。もしかすると恩田氏はここまで計算してこの作品を世に出し、読者に判断を委ねたのかもしれない。

以上、ヒント発見士ぴーちくぱーちくでした。

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