超古典!糸を使って外から鍵を閉める密室トリック

推理小説、密室トリックにはあるまじき行為。それはネタバレ
犯人も勿論そうですが、どんな方法を使って犯人は密室を作り上げていったのか。読者はページをめくりながら思考を廻らせ、あーでもないこーでもないと苦しみつつも、どんな大どんでん返し、奇抜なトリック、コペルニクス的転回のタネがあるのかと読み進めていくのが、密室ものを扱った推理小説の醍醐味ではないでしょうか。
それをですね、なんとですね、まさかのですね。いきなりのっけから、冒頭から真正面にガツンと打ち砕いてくるんですよ。なんならページをめくらずに裏表紙にネタバレが書いてあるんです。
もう言うなれば立ち読みならぬ裏読みですよ。裏だけ黙って読めばいいんです。時代は裏読みです。
こんなの前代未聞。後世未聞。悶々もんのももんじゃですよこれは。
本書はある種の試験的な作品です。
冒頭にもこのように書かれています。少し長いですが、これがこの本の肝になるので紹介させて下さい。
ミステリーには、あちこちで使われすぎたため、お約束を通り越してカビが生えてしまったトリックというのがあります。たとえばこれです。
窓やドアの内側には中から鍵を開け閉めするためのつまみがついている(「クレセント」とか「サムターン」と言います)。そのつまみに紐を巻きつけて、もう一方の端を延ばして窓の周囲の換気扇とか、ドアの隙間から外に出す。それを外から引っぱれば、外からつまみが回せる。強く引っぱると紐がとれるようにしておけば、紐がとれた後には「鍵のかかった部屋」=密室が残される。
本書より
まず本書は全部で5つの作品で構成されるのですが、全ての話しには上記の密室トリックが使われています。だから本書では密室がどうのように作られたとかそんな次元で楽しむものではありません。そしてなぜこんな奇抜な書籍に仕上がっていったのかというと、こちらも冒頭の文を紹介させて下さい。
まず、「トリックはこれを使う」と決めてしまい、その上で「そこからどういうお話を作るか」と問う。おしりを決めて、どんな頭にしますか?という企画です。
本書より
あまりに単純で使い古されて擦り切れているこのわかりやすくて誰でも知っているであろうトリックを使うと宣言して、そこからどんな話しにできるのかとある種実験的な作品。
そしてこの企画に賛同した5名がそれぞれアイデアを出してそれぞれ一つの作品を生み出しまとめたのが本書です。
全ては同じトリックです。でも物の見事に内容がまるっきり異なるのです。似通っているものは一切ない。結構かなーり驚愕ガクガクブルブルです。
5名中4名が現在30代。お一人だけ大御所が混ざり大トリを飾る。
全ての作品が紐を使った同一トリック。でも本当に全然違う。
作品によっては事件やトリックに焦点を当てている、王道に近しい密室殺人ものの小説もあるが、話しの本筋はトリックのそれではない、ストーリーにトリックというかミステリが盛り込まれているものもあったりとバラエティに富んで飛んでおり、これは面白い小説を作ったものだなと感心した次第であります。
さらっと読めるので、推理小説をあまり読まない方にも受け入れやすいと思います。また全然作風、内容が違うので、どれが一番面白かったかとか周りに人と話してみるのも良いと思いますよ。
それにしても、こういうちょっと趣向を変えた企画もたまにはいいですね。小説の魅力を改めて認識させられました。これだから読書というものは大変素晴らしいものだなと。読んでいてよかったなと。読書を勧めたいなと思うわけであります。
でも本って読む人は勧められなくても読むし、読まない人はどんなに勧められても読まないものなんですよね。だからこれら全ては私の独り言。
ただそれだけのこと。