
密室トリック以上にため息が漏れるラスト
「そして名探偵は生まれた」というのが本書のタイトルではありますが、書籍全てが一つの物語で構成されている訳ではありません。
その他に短編集を3つ含んだ4作品が収録されています。
どの作品にも共通しているのが密室が鍵を握るトリックの一つで構成されています。
ミステリ、推理小説ものの定番として、読者が著者から与えられた情報を頼りに推理していけるのも本書の楽しみ方の一つではありますが、正直にいって本書で展開されているトリック、使われている密室に関するトリックには特に驚きを感じる事はありませんでした。
いやね。だからと言って私が全てトリックを暴けたかというとそういう事ではありません。むしろ一つも分かりませんでした(笑)
たいてい推理小説を読んでいる時に多少は考えながら読んだりはするのですが、自分で探偵を気取って答えてやろういう気はハナから毛頭ないのです。
別に強がりでも何でもなく、クイズにように自分で当てたいという願望は一切なく、単純に作品を楽し見たいという気持ちが殆どのだからです。
もちろん、想像もつかないようなトリックや盲点をついたトリックは大好きです。でも自分で暴きたいのではなく、素直に驚きたい、驚かせて欲しいだけなのです。
少し話しを戻します。
密室に関するトリックに驚きがなかったというのは少々違うかもしれません。本書の読み応えがある部分としては、密室のそれではなく、物語の最後に「してやられる」というのが最大のトリックだと思っています。
犯人だ誰なんだとか凶器が何なんだとか、その時刻に犯行は不可能だったとかそんな次元のレベルの話しなんかではなく、話しのオチ、ラストが「なヌーン」って感じ何ですよね。
ヴィダルサスーンではなく「なヌーン」なんですよ。
本書の帯にもこう書かれています。
オチが読めたと思いきや「してやられる」瞠目のラスト!
ミステリだから意外性はあると思ってましたが、本書1作品目でありタイトルにもなっている「そして名探偵は生まれた」から「そうきたかー」って、おでこの面積が十二分に広がったおじさんが自分の手のひらで額にペチンペチンと二回気持ちの良い響く音を奏でた感じ。
分かりますか?
騙されたけど全く不快感はなく、爽快感さえある清々しい気持ちにさせられました。
読む人によって好みは別れるとは思いますが、私はこの「そして名探偵は生まれた」が一番面白かったですね。
だから最初にクライマックスがきてしまったので、残りの3作品「生存者、一名」「館という名の楽園で」「夏の雪、冬のサンバ」は若干消化不良とでも言いますか、物足りないとでも言いますか、そんな気がしてしまいました。
もしかすると作品の順番が違っていれば、また、印象は異なっていたのかもしれません。
順番というものは非常に重要です。トップバッターが一連の大会の評価軸になります。通常であればトップバッターというものは不利で優勝するのは難しい場合が多いです。例えば歌唱力を決める大会であれば、歌のうまさだけでなく、曲のジャンル、アップビートなのかバラードなのかなど色々な要素によって決まります。
そして大抵の大会では都度審査員は点数をつけて行くものです。だからトップバッターは絶対に満点となる事はありません。だって満点にしてしまったら、その次の歌姫か歌王子かは知りませんがさらに上をいく歌い手だったとして満点より上の点数をつけることができないので、トップバッターは大抵半分程度の点数、よくても8割くらいに抑えられるものです。
でも本を読むという行為にその縛りはありません。ましてや歌唱力とか音程がどうとか、そもそも絶対値があるものではなく、いってしまえば各人の完全な独断と偏見です。そりゃもう色眼鏡に色眼鏡を重ねたドス黒い目で見てしまっているものです(そりゃ言い過ぎか)
そんなこんなで、私には想像していたよりも結果の落差が激しかったのが「そして名探偵は生まれた」でした。古いかもしれませんが、野茂英雄ばりのフォークだったので、ボールを受け止められずビックリしました。
そんなボールがきた後だったので、ちょっとした変化球がきても、あまり驚くことができなくなるのは当然の結果です。
あれ?なんで野球の話しになったのでしょう。私は全く野球は見ないし興味もありません。むしろサッカーの方が好きです。でもサッカーで例えてと言われると…すぐには思いつきませんね。野茂投手で正解だったようです。
短編集が4つと雖も450ページ以上もあるので結構ボリューミーです。それぞれの作品が推理小説、ミステリ小説ではあるものの毛色が異なるので、楽しめると思います。
私は何度もしつこいですが「そして名探偵は生まれた」がよかったです。あなたはどの作品が一番面白かったですか?そしてその理由は?
教えて下さると嬉しいなと思っている今日明日この頃でした。
タイトル:そして名探偵は生まれた (祥伝社文庫 う 2-3)
著者:歌野 晶午


