小説・文芸

雰囲気探偵 鬼鶫航-語彙が豊富で言い回しもGood

雰囲気だけの謎を解かない名探偵

今回紹介する小説「雰囲気探偵 鬼鶫航(きのつぐみわたる)」で面白いなと思った点は二つあります。まず一点目が登場人物と設定です(一点なのに二つ挙げるなというご批判は甘んじて受けません)

探偵である鬼鶫航は、タイトル通り雰囲気が名探偵。スーツの着こなしや佇まい、思慮中の雰囲気や所作、言葉遣い、これらがいわゆる私たちが名探偵と聞いて思い浮かべる姿形のそれを全て兼ね備えているのが鬼鶫航です。

しかし残念なことに探偵業の、推理小説の醍醐味でもある謎解きというものを一切しないのです。これは一大事です。探偵社の経理であり相棒でもある良きパートナーの佐々(本文中で鬼鶫からは「さっさ」とスタッカート付きでそう呼ばれる)も鬼鶫に対して探偵らしく華麗な推理で事件を解決することを望んではいますが、やはり見たことがないといいます。

それでも探偵社に持ち込まれる事件は何故だか解決してしまいます。

そして、探偵、事件と続けば必ず出演するのが刑事です。この刑事さんも今までのそれとは一風変わっています。非常に温和で温厚。大抵探偵を毛嫌いしたり疎ましく思うのですが、それらが一切なく探偵である鬼鶫に敬意さえ表します。

本来であればタブーとされる情報提供もするし、反対に下手に出て探偵からも情報提供を求めたり、協力さえあおぎます。

読めば直ぐにわかりますが、計算高いとか探偵を利用してやろうというのは微塵も感じません。ただただ良い人、包容力がある紳士な刑事という印象を抱くと思います。

探偵である鬼鶫航も謎を解かないというだけでなく、そのほか探偵小説に登場する名探偵とは一線を画しているのが、「人を疑わない」というところです。

大抵というかそうでないと務まらないと思うのですが、人を疑うことがありません。ただ話しを聞いて現場を見て事実と向き合う。それでいて推理をしない。警察にも協力するし、警察からも協力を要請される。謎を解かないのに。

こんな設定と共感したくなる人間味のある登場人物が何と言っても本作「雰囲気探偵 気鶫航」の見所だと思います。

そして二点目です。

それは本文の物語や内容、推理などには一切関係がないのですが、語彙力とか表現が豊かとか文章の妙とでも言いますか、沢山の興味深い日本語というものが堪能できる作品です。

ほかにもこの手の素晴らしい文芸作品はあると思いますが、推理小説ではあまり私は見たことがなかったので、これは驚いた部分であります。

ただただ綺麗な表現があるというよりかは、ウィットに富んだとでもいいましょうか、ユーモアがあるとでもいいましょうか、クスッとさせるような、そんな読者を楽しませる表現がいくつもあります。

これは実際に読んで頂かないことには絶対伝わりませんし、人の感性によって大きく左右されるので、もしかすると残念ながらそう感じるのは私だけなのかもしれません。

でもやっぱり自分がいいなと思ったことは他の人にも伝えたいと思うのが人の心情というものです。

私自身には文章力も語彙力も全くありませんので、少し本書の文を抜粋させて頂き、私の表現力、伝える力の無さを補わせてください。ご了承願います。

象形文字の様に大らかという言葉の成り立ちを遡ったら、彼の姿に辿り着くに違いない

本文より

これの表現は先に書いた温厚な刑事である丸古警部補を表現された一文です。私の中には人や雰囲気を表す時にはこの様な発想が全くありません。でもこれだけで丸古警部補の人となりが伝わってkる感じがしませんか?

アイスクリームは糖分と脂質の多さから健康への影響が危惧されますが、食す事で体温が下がる為、身体が元の温度に戻ろうとし、多くはエネルギとしてその場で燃焼されます。そのアイスクリームをソーダ水に浮かべる事によって、純粋なアイスクリームと氷点下に触れて凍ったソーダ水を楽しむ事が出来、且つ、ソーダ水に溶けて行くアイスクリームに限られた時の引力と叙情的儚さを感じられる。人類の探究心と好奇心、そして理知的発想の結晶と呼ぶに値するでしょう。

如何ですか?

この国語能力の超絶無駄遣い感。

漫才やコントでも見ているかの様に、読者がツッコミたくなってきてしまいます。

他にも物語を進めていく上での全くもって不必要だけれども、あることによって本作品を楽しいものとする文章がまだまだあります。

普段使わない様な熟語も多くあり、語彙力を上げるのにもいい小説だと思います。

「雰囲気探偵」という字面だけで購入しましたが、これはアタリでした。

よければお手にとって読んで見てください。面白かったですよー。

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